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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和34年(ワ)139号 判決 1968年2月29日

原告 菱中興業株式会社外一〇名

被告 全国紙パルプ労働組合連合会王子製紙労働組合

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告らの申立

1  被告は、

(1) 原告菱中興業株式会社に対し

金二九一万四、四七九円

(2) 原告株式会社松本鉄工所に対し

金一五万三、三三九円

(3) 原告丸彦渡辺建設株式会社に対し

金一三万二、〇三二円

(4) 原告株式会社更生鉄工所に対し

金三八万七、三四四円

(5) 原告株式会社丹野工業所に対し

金六万七、五七〇円

(6) 原告日本ルーフイング工業株式会社に対し

金五万八、〇一九円六七銭

(7) 原告丸一興業株式会社に対し

金一〇万六、六七九円一六銭

(8) 原告株式会社畑野組に対し

金三万七、三一六円

(9) 原告雨龍建設工業株式会社に対し

金一二万一、八四〇円

(10) 原告不二工業株式会社に対し

金四万三六六円九銭

(11) 原告三井建設株式会社に対し

金六万一、八二七円

及び右各金員につき、昭和三四年九月五日以降支払い済みに至るまで、年五分の金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  保証を条件とする仮執行の宣言を求める。

二、被告の申立

主文同旨の判決を求める。

第二、原告らの請求原因

一、原告らの立場

原告らは、訴外王子製紙工業株式会社苫小牧工場(以下、単に訴外会社苫小牧工場または苫小牧工場という。)の指定業者として、後記労働争議前から継続的に売買、請負等の契約を結び、同工場への原材料の納入、同工場内の修理、運搬等の請負作業を行なつていたものであるが、後記のとおり原告ら従業員が被告組合員によつて同工場への立入りを阻止された昭和三三年九月八日から同年一一月五日までの間の原告らの請負作業等の内容は、次のとおりである。

1  原告菱中興業株式会社(以下菱中興業または菱中という。)

(一) 同原告は、訴外会社苫小牧工場との間に、昭和三三年四月三〇日付で、松チツプ一四万石を受渡場所同工場調木コンベア室、代金税込み一石当り金一、三三〇円、受渡期限昭和三四年三月末日の約で売り渡す契約をし、これによつて継続してチツプを納入していたが、同工場における後記労働争議のため、同工場の操業が停止されたので、チツプ納入を中止していたところ、昭和三三年九月一六日付で、同工場より同月一七日以降一日二〇〇石を限度としてチツプを納入するようにとの指示があつたので、これに従い納入しようとしていた。

(二) 同原告の王子構内事業所は、苫小牧工場の南土場における雑原木の貨車卸し、移送、山積み、払出し、皮剥ぎ及びこれらに付属する作業、調木廃材処理作業、給食配達等を請負つていた。

(三) また、同原告の運輸部は、苫小牧工場構内の南土場からバークボイラー室まで原木皮を運搬し、その皮を切断して積みあげ、さらにベルトコンベアーに乗せる作業及び調木室ドラムバーカーから出る木屑を積みあげる作業を請負つていた。

(四) さらに、同原告の工事部は、苫小牧工場構内の各建物の修繕工事及び右修繕に属する土木工事並びに各マシン室内側壁、天井の塗替工事を請負つていた。

2  原告株式会社松本鉄工所(以下松本鉄工所または松本という。)

同原告は、苫小牧工場構内の砕木マガジンの改修、九号マシンワインダーの移設、機械の据付、機械及び部分品の改修をそれぞれ請負つていた。

3  原告丸彦渡辺建設株式会社(以下丸彦渡辺建設または丸彦という。)

同原告は、苫小牧工場構内のドラムバーカー室の増築、建物の修繕、土木雑工事を請負つていた。

4  原告株式会社更生鉄工所(以下更生鉄工所という。)

同原告は、苫小牧工場構内の汽力室、調木室、砕木室、製薬室内における機械器具の小修繕、ボイラー汽缶工事を請負つていた。

5  原告株式会社丹野工業所(以下丹野工業所という。)

同原告は、苫小牧工場構内の各建物内の配管工事、配管修繕工事を請負つていた。

6  原告日本ルーフイング工業株式会社(以下日本ルーフイングという。)

同原告は、苫小牧工場構内の各建物の屋根のアスフアルト防水工事を請負つていた。

7  原告丸一興業株式会社(以下丸一興業という。)

同原告は、苫小牧工場構内の各建物、機械パイプ類に対する塗装工事を請負つていた。

8  原告株式会社畑野組(以下畑野組という。)

同原告は、苫小牧工場構内の各建物の修繕を請負つていた。

9  原告雨龍建設工業株式会社(以下雨龍建設または雨龍という。)

同原告は、苫小牧工場構内の事務所玄関前ブロツク舗装工事、高架桟橋架替工事、水路及び調木池浚渫作業、炭殻、塵芥及び硫化鉄鉱燃焼粕運搬作業、岐線補修工事を請負つていた。

10  原告不二工業株式会社(以下不二工業という。)

同原告は、苫小牧工場構内の各建物内外の電気設備の新設及び修繕を請負つていた。

11  原告三井建設株式会社(以下三井建設という。)

同原告は、苫小牧工場構内の水道の施設及び修繕、消火栓の改修、事務所玄関前給湯設備の改修を請負つていた。

二、被告の構成、組織

1  被告は、訴外会社従業員の一部によつて組織された労働組合で、その下部機構として、東京支部、春日井支部、苫小牧支部を擁し、苫小牧支部は、訴外会社の苫小牧工場その他北海道内所在の事務所、出張所、発電所及び研究所の従業員によつて組織されている。同支部の組合員数は、後記争議開始当時約三、一五〇名であつたが、その後同組合を脱退する者があいつぎ、昭和三三年八月八日、脱退者約八〇〇名によつて、王子製紙工業新労働組合(以下新労組という。)が結成された。

2  被告の機関としては、大会、中央委員会、中央執行委員会があり、大会は、被告組合の最高議決機関であつて、代議員、役員及び各支部長によつて構成され、中央委員会は、大会に次ぐ決議機関で、中央委員役員及び各支部長により構成され、中央執行委員会は、大会及び中央委員会の議決事項を執行し、緊急事項を処理することとなつており、中央執行委員長は、被告を代表して業務を統轄するものである。

三、争議の経過と原告ら従業員に対する工場内立入阻止

1  昭和三三年二月二八日、被告が訴外会社に賃上げ、結婚祝金、退職金の増額を要求したことに端を発し、就業規則、労働協約等の改訂問題もからまつて、被告と訴外会社との間に争議が生じ、被告は、時限スト、部分ストを繰り返した後、同年七月一八日から全面的無期限ストライキに突入し、これに伴い訴外会社も操業を中止するに至つた。

2  その後、前記のように、新労組が結成されたため、同年八月一六日頃、訴外会社は新労組と生産に関する団体交渉を行ない、新労組組合員による一部操業を開始することを決定したところ、被告は、新労組組合員の就労に強く反対し、就労のために入構しようとする新労組組合員に対し、いわゆるピケ小屋による警戒、多数組合員が幾重にもなつて組む重厚なスクラム、威嚇的言辞、攻撃的行動等争議行為として許された限界を越えたピケツテイングによつて、同月一九日から同月二八日まで、新労組組合員の入構を実力をもつて阻止した。

そのため、訴外会社は、札幌地方裁判所に対し、被告組合の苫小牧支部を相手方として立入禁止等の仮処分申請を行ない、同裁判所は、同年九月六日、苫小牧支部は訴外会社の指定する従業員及びその他の者が苫小牧工場内に出入りすることを実力をもつて妨害してはならないことなどを内容とする仮処分決定をした。苫小牧支部は、右決定に従わず、新労組組合員の工場内立入を実力により阻止したため、同月一五日執行吏の援助要請による警察官約一、八〇〇名の出動をえて、ようやく新労組組合員は入構就労することができた。しかし、その後も、苫小牧支部は、引き続き前記のようなピケツテイングを継続したため、新労組組合員は、同年一二月九日の争議妥結まで、いわゆる工場構内籠城を余儀なくされた。

3  原告らは、争議前より引き続き争議中も苫小牧工場内で、前記のような工場構内の請負、運送の作業を行なつていたところ、前記仮処分決定が出たため、苫小牧支部は、その態度を硬化し、昭和三三年九月八日以後は、それまで工場内に自由に立入つていた原告らの従業員に対しても、攻撃的態度をとり、重厚なスクラムを組むなどの暴力を用いて、その入構を阻止し、このため、原告らの従業員は、別紙記載の月日、構内作業に従事することを妨げられ、また、菱中興業のチツプ搬入は、昭和三三年九月一九日から同年一二月一八日までの間、これを行なうことができなかつた。

四、立入阻止の違法性と被告の責任

1  争議行為は、本来労働者が団結して労働契約上の労務提供義務を拒否することにあり、使用者は、これによる業務上の支障及び損害を忍受すべきものとされているが、使用者がこの損害を減ずるため、非組合員その他の第三者を用いて、労働者がストライキによつて放棄した業務を遂行、運用し得ることは、使用者の財産権、自由権に基づく当然の権利であつて、労働者がこれに対して積極的な妨害を加え、あるいは、使用者の管理を排除することは、正当な争議行為の範囲を逸脱するものであり、まして、暴力ないしはこれに類する実力を行使して使用者の業務の遂行を妨害することが違法であることは明白である。

2  (一) 被告の組合規約によれば、同盟罷業権の行使は、中央委員会に付議し、組合員の三分の二以上の有効投票により、全組合員の過半数の賛成投票によつて決定され、争議に際しては、本部斗争委員会を設置し、中央執行委員長が本部斗争委員長となつて、各支部に対し、争議の開始、争議の手段方法について指令を発することになつている。これら組合規約及び組織体の行動の性質よりすれば、原告ら従業員に対する前記の違法な入構阻止は、被告代表者たる中央執行委員長が、本部斗争委員長として苫小牧支部に対してした指令に基づき、同支部長が同支部組合員に、これを命じたものであることは明らかである。

(二) 仮りに、中央執行委員長が前記のような入構阻止を直接指図しなかつたとしても、被告の組合規約、苫小牧支部規約等によれば、争議に際して、支部斗争委員会及び支部斗争執行委員会に争議の手段、方法を定める権限が与えられているから、苫小牧支部において、前記入構阻止のような違法な争議手段を決議し実行することは、被告代表者の中央執行委員長が予め承認していたものというべく、直接違法行為を指示しなかつたとしても、結局、同委員長が指示してさせたのと同一である。

(三) さらに、仮りに中央執行委員長が苫小牧支部に対して、かような違法行為を直接指示せず、または事前に承認していなかつたとしても、原告ら従業員が入構を阻止されたのは、前記のとおり昭和三三年九月八日から同年一一月五日までで、右事実は中央執行委員長が知らずあるいは聞知しないはずはないのであつて、同人は右事実を知りながら、これを中止させる権限及び義務があるのに、中止させなかつたもので、その故意または過失の責を免れることはできない。

3  苫小牧支部組合員が、原告ら従業員の工場構内立入を違法に阻止したのは、以上述べたとおり被告代表者である中央執行委員長の違法な職務執行の結果であるから、このため原告らが受けた損害について、被告は、労働組合法第一二条、民法第四四条により、これを賠償する義務を負うものである。

五、原告らの損害

1  原告らは、訴外会社苫小牧工場との前記請負契約に基づき、工場内に従業員を入構させ、就労させようとしたところ、苫小牧支部組合員の入構阻止のため、従業員を現実に就労させることができなかつたが、従業員は、自己の労務を提供しうべき状態においたのであるから、原告らとしては、従業員に対し賃金を支払い、各種の保険掛金を負担せざるをえなかつた。すなわち、苫小牧支部組合員らの阻止行為がなければ、原告らは従業員の労務の提供を受けることができたのに、その阻止によつて、これを受けないままに、賃金などの支払、負担をしなければならなかつたのである。従つて、原告らが支払い負担した賃金、各種保険掛金相当額は、被告代表者たる中央執行委員長の前記のとおりの違法な職務遂行によつて被つた原告らの損害というべきであり、被告は、これを賠償する責を負うものである。

原告らが、被告苫小牧支部組合員のため入構を阻止され、就労しなかつた従業員に対して、支払、負担した賃金、各種保険掛金の合計額は、次のとおりである。

菱中興業     八一七、三四四円

松本鉄工所    一五三、三三九円

丸彦渡辺建設   一三二、〇三二円

更生鉄工所    三八七、三四四円

丹野工業所    六七、五七〇円

日本ルーフイング 五八、〇一九円六七銭

丸一興業     一〇六、六七九円一六銭

畑野組      三七、三一六円

雨龍建設     一二一、八四〇円

不二工業     四〇、三六六円九銭

三井建設     六一、八二七円

2  さらに、菱中興業は、前記のとおり訴外会社苫小牧工場との契約に基づき、昭和三三年九月一七日以降一日二〇〇石を限度としてチツプを納入しようとしたところ、同月一九日から同年一二月八日までの間、苫小牧支部組合員に搬入を阻止され、この間合計七、三七九・六石のチツプを納入することができなかつたが、チツプ一石当りの販売価格は金一、三三〇円でその生産原価は金一、〇四五円八二銭であるから、同原告は搬入阻止のため、金二〇九万七、一三五円の利益を喪失したものである。

六、結論

よつて、原告らは被告に対し、それぞれ申立のとおりの損害賠償と、これに対する不法行為後の昭和三四年九月五日以降支払い済みに至るまで、民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める。

第三、請求原因に対する答弁と被告の主張

一、原告らの立場

原告らの請求原因一の事実は、いずれも知らない。

二、被告の構成、組織

請求原因二の事実を認める。

三、争議の経過と下請労働者の入構

1  要求の提出から無期限ストの開始まで

(一) 請求原因三の1の事実を認める。

(二) 昭和三三年二月二八日被告は訴外会社に対し、平均金二、一六一円(定期昇給分を含む。)の賃上げと退職金及び結婚祝金の増額を要求して交渉に入り、数次の団体交渉を重ねた末、訴外会社は、同年三月二四日定期昇給分を含む金七二七円の賃上げのみを認め、その余の要求を拒絶し、さらに就業規則を改め従来の六日間操業を一二日間連続操業方式にすること、これを賃上げ問題と同時に解決するとの回答をしたが、被告において、賃上げ問題と右連操問題とを別個に解決することを要請したことから交渉は進展しなかつた。

そこで、被告は、組合員の全員投票を行なつたうえ、四月二四日以降五月七日まで、部分スト、全面時限ストなどを各支部ごとに反覆して行なつたが、これに対し訴外会社は、部分または全面的ロツクアウトをもつて対抗した。

(三) このようにして、交渉が進展しないため、五月八日被告は中央労働委員会に斡旋の申請をして、事態の平和的解決をはかつたが、訴外会社は、同月一〇日操業方式の問題は第三者の判断を仰ぐに不適当であるとの理由で斡旋を拒否し、同月一七日最終回答として、被告が一二日間連続操業を受け入れることを条件に賃上げ金一、〇五三円を含む案を被告に提示するとともに、突如として、(イ)ユニオン・シヨツプ制の廃止、(ロ)就業時間中の組合活動の制限、(ハ)チエツク・オフなどの便宜供与の制限・廃止、(ニ)争議行為の事前通告、(ホ)争議行為中の福利厚生施設の利用制限を骨子とする労働協約の改訂を提案した。

これに対し、被告において、下部討議、中央斗争委員会会議などを開いて検討した結果、現行協約の更新をはかることに決定して、訴外会社と交渉したが、訴外会社は改訂案に固執したため、交渉が進まず、協約期間の満了する同年六月一七日被告執行部は、その責任で会社の要求する連操を受諾する代わり、労働協約を現行のまま延長することを提案したが、訴外会社がこれを拒否したため、団体交渉は決裂し、訴外会社と被告とは無協約となつた。

(四) 被告は、六月二三日以降訴外会社の反省を促すため、数次のストライキを各支部において行なつたが、このような状況の中で、かねてから分裂活動をしていた東京支部は、七月一日大会を開いて場合によつては被告組合から脱退すると決議し、四日脱退声明をして、八日には本社従業員団を結成した。他方苫小牧支部でも、七月一日事務部門の大会が開かれ、執行部の不信任、スト中止などを決議し、翌二日同支部の緊急斗争委員会で、従来からの基本方針を貫ぬくことが確認されたのに、四日には再び執行部不信任、大会開催要求のビラがまかれ、七月一八日苫小牧、春日井両支部が全面無期限ストライキをはじめるまで、苫小牧では、事務部門、職制計一三名が被告組合を脱退した。

この間、訴外会社は、争議終局のための熱意を示さず、被告からの団交申入れを拒否するばかりか、あらゆる機会に被告指導部を「斗争至上主義」と誹謗し、組合分裂をはかつて暗躍し、これに対し、被告は七月一五日東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てたが、訴外会社の暗躍を完全に阻止することはできなかつた。

2  無期限ストの開始から終結まで

(一) 請求原因三の2の事実のうち、原告ら主張の内容の仮処分決定があり、原告主張の日新労組組合員が警官隊に守られて工場内に入構した事実は認めるが、苫小牧支部組合員がピケツテイングの限界を越えたスクラムを組んで攻撃的行動をとつたとの事実は否認する。その余の事実は知らない。

(二) 無期限スト開始とともに、訴外会社は被告の組織に対する分裂の策動を強め、七月一八日前記本社従業員団に対し夏期一時金の回答を行ない、脱退者を相次いで苫小牧、春日井に分裂オルグとして派遣した。さらに、訴外会社は、全組合員に速達便を出したり(春日井)、ビラを配布したり(苫小牧)して、第二組合の結成を公然と応援し、このような援助の下に、八月四日本社、八日苫小牧、一一日春日井と相次いで第二組合が結成され、同月一四日訴外会社は、新組合とは全面的に協力するが、被告とは最後まで対決すると声明した。

被告は、訴外会社から正当の理由なく団体交渉を拒否されたため、八月一三日中央労働委員会に団交拒否を理由に不当労働行為の救済申立を行ない、さらに同月一六日北海道地方労働委員会に対し支配介入を理由に不当労働行為救済の申立を行なつた。

他方、訴外会社は、同年九月六日原告ら主張の仮処分決定があると、これによつて生産を再開し、第二組合員の力による就労をもつて、争議解決の唯一の手段と称し、北海道地方労働委員会、中央労働委員会の斡旋を拒否し、同月一五日苫小牧工場に二、〇〇〇名の警官に守られて第二組合員を入構させると、直ちに生産再開を宣言し、被告に対してロツクアウトを行なつた。

(三) その後、しばらく争議の様相は小康を保つたが、やがて紙の原料である原木の搬入と製品の搬出をめぐつて、再び緊迫した事態が生じた。すなわち、苫小牧工場では、原木の工場構内搬入は送木水路によつて構外から流送されるが、これに対し被告が説得、団結による示威を目的とするピケツテイングを行なつていたところ、訴外会社は、同年一〇月一四日暴力団をもつてピケ破壊を行ない、さらに裏門のピケが暴力団におそわれ、また国鉄とつなぐ専用側線のある東北門では、ピケによる製品搬出の不能を打解するため、数百名の暴力団を使用して排除を企てるなど、あらゆる暴力が白昼公然と行なわれるようになつた。そして、暴力によつて、ピケを排除できないとみると、このピケが実力による妨害であるとして、札幌地方裁判所に執行命令の申立をしたが、同裁判所は、ピケを正当行為と認めて、同月一八日申立を却下した。しかるに、同月二一日警察はこの正当なピケを不当にも排除し、多数の負傷者を出して貨車の入構を行ない、以後連日のように警察は不当に争議に介入するようになつた。

(四) 同年一一月六日中央労働委員会は、新聞用紙の枯かつその他の事情から職権斡旋に入り、同月二一日斡旋案を提示し、労使双方これを受諾して団体交渉を進めたが、妥協ができず、ついに一二月九日同委員会の仲裁裁定が行なわれて、これにより同日スト及びロツク・アウトが解除された。

3  下請労働者の入構

(一) 請求原因三の3の事実を否認する。

(二) 請負業者の労働者(以下、下請労働者という。)の入出構については、被告は、本件争議以前の争議中もこれを認め、本件争議においても、昭和三三年九月七日までは、下請労働者の入出構について、なんの制約も加えなかつた。

(三) しかるに、九月六日前記のとおり、就労妨害排除の仮処分決定があり、訴外会社が入構した下請労働者を使つてスト破りをすることが予想されたため、同月八日被告は苫小牧地区労働組合会議(以下、地区労という。)と共同で、請負業者に対し、被告のストライキに協力方を申入れ、下請労働者にも、労働者の団結を訴えて、協力支援を求めた。同日午前七時、出勤のため工場通用門前に集つた下請労働者に、入構待機を呼びかけ、協力があれば、賃金の七割を被告で保障するといつて説得したところ、下請労働者は納得して帰つた。

翌九月九日は、入構のため適用門前に集つた下請労働者に対し、前日同様の説得が行なわれ、午前一一時過ぎに下請労働者は引きあげたが、直接生産にたずさわらない者は入構させることにして、田中組の第二汽缶への燃料運搬、雨龍建設のゴミ運搬などは入構した。

九月一〇日は、前日同様の説得により、下請労働者は午前一〇時頃一旦引きあげたが、請負業者からやりかけの仕事整理のため二四人だけ入構させるようにとの強い要請があつたので、これを了承して入構させた。

九月一一日午前七時から合坪地区労議長の斡旋で、業者代表と被告執行部とが話し合い、(イ)従来の契約作業の範囲を越えないこと、(ロ)第二組合のスト破りに加担しないこと、(ハ)入出構の時間を厳守することを業者が守ることで交渉がまとまり、念書を取り交して、午前一〇時労働者約三五〇名が入構し、以後一四日まで、問題なく入出構した。

九月一五日前記のように第二組合員の強行就労があつたため、隊伍を組んで来た下請労働者に情勢が落ち着くまで入構を延期するよう説得した結果引きあげた。

九月一六日午前八時頃、菱中興業の山田耕次郎工事部長らに引率されて、下請労働者約二五〇名が通用門前に集つた。これに対し、被告側では、従来の作業範囲を越えないという確約をするならば入構はさしつかえないといつたところ、山田は、自分の一存では決められないし、雨も降つて来たからといつて引きあげた。

九月一七日午前七時頃、前日同様通用門前に下請労働者が集つたので、業者代表者に被告の三役が話合いを求め、第二組合の生産再開に下請労働者が使用されないため、毎日午前七時から午後四時までに時間を限り、作業内容の約束を守るなら入構を拒まないと申入れたところ、業者らは、これを不満として一旦引きあげたが、結局被告の申入れの線を確認し、念書を取り交して午後一時頃入構し、一八、一九両日は、下請労働者は平常どおり入構した。

(四) 九月二〇日、前日下請労働者のうち菱中興業、松本鉄工所の労働者が、約束に反し正規従業員の仕事である損紙処理、ドラムバーカーの運転を行なつている事実が発見されたため、菱中、松本の責任者に、違反事実を説明し、今後スト破りとなるような仕事をしないと誓約するよう要請したところ、これを拒絶し、われわれにも考えがあると述べて帰り、結局、この日は菱中、松本の労働者は入構せず、他の業者の労働者は問題なく入構した。

翌九月二一日菱中、松本が中心となつて、「王子製紙構内下請業者協議会」を作り、市街にビラ、宣伝カーで被告は下請業者をつぶすと宣伝し、下請労働者を一カ所に集めて隊伍を組ませて、通用門に向つて来たが、被告は、前日同様菱中、松本の業者には話合いを求め、他の業者は入構させ、二二日も同様であつた。

九月二三日菱中、松本以外の業者、労働者まで菱中、松本と一緒になつて入構しようとしないので、被告は、菱中、松本の責任者には話合いを求め、他の業者には入構を促したところ、菱中、松本は話合いに応ぜず、かえつて下請労働者の先頭に入墨をした臨時人夫をたたせ、被告のストライキを妨害し、会社の生産に協力する態度を示し、しかも、両業者以外の下請労働者を巻添えにして入構させず、翌二四日も同様の状態が続いた。

九月二五日執行吏を先頭に下請労働者約三五〇名が入構のため行進して来たが、被告は、菱中、松本には話合いを求め、その他の業者には入構を促したところ、業者代表は話合いを拒絶したが、執行吏の提案により午後から話合うことにして、午前一〇時下請労働者は引き上げ、同日午後の話合いで、業者は現在王子製紙労使が争議中であることを十分考慮して請負契約を結び就労するということを確認することで妥結し、翌二六日朝覚書を手交して平常どおり入構した。

(五) 以来平穏に下請労働者は入構していたが、一〇月一三日苫小牧工場構内の原木が枯かつしたことから、訴外会社は、水路を使つて原木を流送することをはかり、菱中、丸彦、雨龍の三下請業者にこれを担当させることにしたので、被告ピケ隊は、団結による示威と説得とによつてこれを阻止しようとしたが、三業者に臨時に雇われた暴力団の暴行によつてピケが破られ、被告組合員の中に多数の負傷者を出し、一四日も水路門で下請労働者との摩擦があつたが、訴外会社は原木流送を強行した。

同日、被告は、菱中、丸彦、雨龍が、前日正規従業員の仕事である原木流送などのスト破りを行ない、被告との覚書に反したため、通用門で午前七時から説得に当つたが、午前一〇時頃話合い中にもかかわらず約二〇〇名の下請労働者がピケ隊に体当りするなどの暴挙があつた。しかし、被告のねばり強い説得の結果、先ず菱中と話合いがついて午後一時頃入構し、次いで、他の二業者とも話合いができて一五日から入構することにした。

その後、下請労働者の入構問題についてなんらの紛争も生じなかつたが、ただ一一月五日は、全国の警職法改悪反対統一行動日であつたので、下請労働者に統一行動を訴えたところ、これに応じて午前一一時まで入構しないことがあつた。

(六) 菱中興業のチツプの搬入は、六月二四日以降停止されていたが、九月一五日第二組合員の強行入構があつて、生産を再開したことから、一七日菱中より一日二〇〇石のチツプ搬入を被告に申入れて来たので、被告はストライキの効果を保ち、かつ訴外会社が一割生産をしていることを考慮して、一割だけの搬入を認めることにし、三日間位話合いが続けられ、九月一九日以降、菱中ではチツプを積んだ三輪車二台を裏門付近に待機させていた。

一〇月一八日裏門で突然菱中は、臨時に雇い入れた暴力団約六〇名をピケ隊に襲いかからせ、裏門橋の上にあつたピケ小屋、小屋内のストーブなどを道路あるいは川の中に投げこみ、ピケ隊員一五名に暴力を加えさせ、その間に三輪車約八台のチツプを搬入した。さらに、同月二一日、ナイフ、鉄線切りハサミなどを持つた菱中の臨時人夫が裏門ピケ隊を襲い、ここを占拠した。

そこで、菱中と被告との話合いによつてチツプ五台分を入構させ、翌二二日共斗本部オルグ武田信一の仲介により、毎日自動三輪車一五台分のチツプを搬入することで話合いがつき、被告と菱中とで覚書を手交した。

一一月二日チツプ搬入について増車の要請があつたが、被告はこれを拒絶し、菱中は前の協定どおりチツプを搬入しただけで、増石分を実際に搬入しようとはしなかつた。

四、被告の行動の正当性

1  (一) 原告らの請求原因四の1の主張を争う。

(二) 前項において詳細に述べたとおり、被告と原告らとの間に、争議中若干のいきさつがあつたことは事実であるが、決して被告組合員が実力で下請労働者らの入構を阻止したのではなく、説得ないし話合いにより、結局原告ら自らの意思でそのような結果になつたのである。

労働組合が、争議中ストライキの実効性を確保するため、ピケツトをはり、団結による示威と説得を行ないうることは、争議権が憲法上保障されているところよりして当然であり、被告が本件争議においてとつたピケツテイングは、前述のとおり右限度を出るものではないから、組合活動として正当なものといわねばならない。

(三) 仮りに被告組合員が原告らに対してとつた行動に多少行き過ぎの行為があつたとしても、原告らの本件入構は訴外会社、第二組合と共同して組合の団結を攻撃し、ストライキの実効をなからしめるためになしたものであり、原告らはいわゆる争議における第三者というよりは右争議において被告と対抗する相手方当事者と同視すべき立場にあつたのであるから、法益の権衡からいつて、被告組合の行為は正当なものといわなければならない。

2  請求原因四の2の事実のうち、原告ら主張の内容の規約、規則があることは認めるが、その余の事実は否認する。

中央執行委員長が違法行為を指示、指令したことはなく、またありうるはずのないことであり、また違法行為を承認したこともない。

五、損害の主張について

1  原告らの請求原因五の主張を争う。

2  原告菱中興業は、阻止されたチツプ石数を損害額の基礎として主張するが、チツプそれ自身は、入構阻止によつて消滅するものではないから、特定の日の売上げの減少が直ちに損害となるものではない。

第四、証拠関係<省略>

理由

一、労働争議による第三者の損害と労働組合の責任

原告らは、本訴において、被告組合とその使用者である訴外王子製紙工業株式会社(以下、訴外会社という。)との労働争議に際し、右訴外会社と取引関係のある原告らが、その債務履行のため訴外会社苫小牧工場へ従業員を入構させ、または製紙原料のチツプを搬入しようとしたのを、被告組合の組合員が阻止したことは不法行為を構成すると主張して、被告に対し損害賠償を求めているが、ある企業における労働争議またはこれに伴う争議行為(特に労働組合の)によつて、その企業と取引関係のある第三者が損害を受けた場合の責任関係については、議論の存するところであるから、最初に、この点について、本件の解決に必要な限度において、当裁判所の見解を明らかにすることとする。

労働争議は、ある企業における使用者と労働組合とが、労働関係に関するそれぞれの主張を貫徹するために、互いに争議行為をもつて対抗するものであるから、その限りにおいては、争議中の組合員たる労働者は、使用者の経営指揮から離脱しているものといわねばならず、したがつて、使用者は争議中の労働組合または組合員の行為について、責任を負うものではないとの見解もあり得よう。しかし、使用者の指揮からの離脱といつても、それは一時的なものにすぎないうえ、そもそも労働争議が使用者と労働者の間の基本的労働関係の存続を前提とし、その内容について相互の主張をたたかわせるものであることよりすれば、企業外の第三者との関係においては、労働争議または争議行為は、企業内部に生起した事象と見るべきであり、これによる危険は使用者に負担させるのが合理的であり、衡平の原理にも適合する。したがつて、使用者は取引関係のある第三者に対し、労働組合による争議行為であることを理由に、その契約上の責任を免れることはできないと解するのが相当である。すなわち、第三者の使用者に対する契約上の履行請求権が、労働組合の争議行為によつて侵害された場合には、使用者は履行遅滞または履行不能による責任を負担すべく、また、第三者が使用者に対し履行義務を負う場合に、争議行為の結果、使用者がその履行を受け得なかつた場合は、使用者の受領遅滞となり、その結果第三者の債務が履行不能となつた場合、危険負担について、民法第五三六条第二項の適用があるといわねばならない。そして、争議行為が、企業の内部問題と解される以上、それが争議行為として正当なものであつたかどうかは、右に述べた使用者の契約責任をなんら左右し得るものではないと解される。原告らが、その主張のとおり、被告組合の争議中の行為によつて、訴外会社と取引契約上損害を蒙つたとすれば、原則として、訴外会社がそれについて契約責任を負担するものというべきである。

問題は、争議行為をした労働組合またはその組合員が、使用者の契約責任とならんで、第三者の蒙つた損害について、直接第三者に対し責を負うかどうかである。この点について、その争議行為が争議行為として正当な場合には、労働組合がなんらの責任を負わないことについて異論を見ない。けだし、労働組合またはその組合員が、使用者に対し正当な争議行為について民事上免責されることについては、法の明定するところであるが(労働組合法第八条)、これは、争議権が憲法上の基本権の一つとして保障されていることに基づくものであると解されるから、右規定の趣旨は第三者との関係においても尊重されなければならず、正当な争議行為については、労働組合またはその組合員は、使用者のみならず第三者に対しても、民事上の責任を負わないものと解さねばならないからである。

これに対して、争議行為が違法な場合に、労働組合またはその組合員がどのような責任を誰に対して負うかについては議論が多い。労働組合法第八条よりすれば、労働組合または組合員は、違法な争議行為については、使用者との関係で民事上の免責を受け得ないことは明白であるから、争議行為によつて蒙つた使用者の損害を賠償すべく、また、前記のとおり、使用者が取引関係のある第三者に対し、争議行為による損害について契約責任を負担した場合、労働組合または組合員にそれを求償することも妨げられない。しかし、企業と取引関係のある第三者に対し、労働組合または組合員が直接民事責任を負うかどうかについては、争議行為の性質、労働者と第三者との関係等の見地から、別個の考察を要する。争議行為は、前記のとおり、企業の内部問題であり、労働組合の作為または不作為が争議行為として正当なものであるかどうかは、いわゆる法規違反の場合を別にすれば、専ら使用者との関係で判断されるのであつて、第三者との間でこれが決められ得るものではないこと及び企業と取引のある第三者との関係においては、労働者は使用者の履行補助者たる地位を有するに止まり、これと直接の法律関係に立つものではないことよりすれば、本来企業との契約関係から生ずべき利益の侵害により第三者が蒙つた損害については、それが労働組合の争議行為による場合であつても、使用者が、契約責任を負担するに止まり、労働組合または組合員は、使用者とならんで、直接第三者に対し責任を負担しないものと解するのが相当である。これに反し、労働組合や組合員が直接第三者に対し責任を負うと解すると、第三者が、争議行為の違法を主張して、労働組合等に損害賠償の請求や争議行為停止の仮処分等を訴求し得ることを認めることとなると思われるが、そうすれば、企業の内部関係に属し、労使間で解決さるべき労働関係に対し、第三者が介入することを許容することになつて、極めて不都合な結果を招来することとなろう。

もつとも、労働組合または組合員の作為または不作為が争議行為として評価できないような場合、換言すれば、その目的や行為の外形よりして、それが企業の内部問題としての性質を持たないような場合、例えば、ストライキ等の行為が使用者に対する労働関係上の主張の貫徹のためではなく、専ら使用者と取引のある第三者に対し損害を加える目的で行なわれたような場合や第三者の製品や機械器具などを故意に損壊したような場合には、それが争議行為の形式をとり、または、労働争議に際して行なわれたものであつても、これに責任ある労働組合または組合員は、その損害に対し直接第三者に対して不法行為の責任を負うべきことは当然である。ただし、注意すべきことは、労働組合または組合員の行為が、右に述べた意味での争議行為に当るかどうかの判断においては、単にその行為が外形上第三者に向けられたものであるかどうかによつて決すべきものではないということであつて、ピケツテイングのように、それが行為の外形上第三者に向けられたものであつても、その目的が使用者に対する主張の貫徹にあり、その目的達成のためにその行為が有効なものであれば、これを争議行為と認めるべきであり、反対に、いわゆる部分ストのように、直接第三者に向けられたものではなくても、その目的が右部門に関係する特定の第三者に損害を加えることのみを目的とし、労働争議の目的達成と無関係または全く不必要な場合には、かかる行為を争議行為と認めることはできない。

以上述べたところを要約すると、労働組合の争議行為によつて、その企業と取引関係のある第三者が取引上の損害を受けた場合、使用者は、その争議行為が正当なものであると否とを問わず、その第三者に契約責任を負うが、労働組合は、争議行為が違法な場合であつても、直接第三者に対し責任を負うことはなく、ただ使用者から求償権を行使され得るに止まるのであり、ただ、労働組合の行為が、その目的、態様よりして、企業の内部問題たる争議行為と認められないような場合に限つて、労働組合は、直接第三者に対して、右行為による損害の賠償の責を負うというのである。そこで、原告らの本訴請求の当否を判断するためには、まず、被告組合が原告らの従業員の訴外会社苫小牧工場入構などを阻止したことが、前述の意味での争議行為に当るものであるかどうかが検討されなければならず、これが争議行為に当ることになれば、それが争議行為として正当なものであるかどうかを問うまでもなく、被告は直接原告らに対し責任を負わず、原告らの請求は理由がないこととなる。以下、被告の右行為が争議行為に当るかどうかを、右行為の行なわれるに至つた経過、背景及びその具体的態様を検討することによつて、明らかにすることとする。

二、当裁判所の認定した事実

1  原告組合の争議の経過

当事者間に争いのない事実にいずれも成立に争いのない甲第一九ないし第二一号証、同第二四号証(本証については原本の存在も争いがない。)、乙第一ないし第三六号証、同第四六、第四七号証、同第四八号証の一、二、同第四九号証並びに証人市川年雄、同皆川光男、同小山喜代治、同宇佐吉雄、同岡田建一、同蛯谷武弘、同池之谷吉春、同吉住秀雄の各証言によれば、被告組合と訴外会社の争議の経過は、次のとおり認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

被告組合は、訴外会社の従業員をもつて組織された労働組合で、東京、苫小牧、春日井の各支部を擁し、昭和三三年の後記争議突入当時の組合員数は合計約四、五〇〇人で、苫小牧支部には、訴外会社苫小牧工場を中心に北海道内の従業員約三、一五〇名が加入していた。

昭和三三年二月二八日被告組合は、訴外会社に賃金、退職手当等の増額に関する要求を提出し、これに対して、訴外会社からは、就業規則の一部改訂による一二日間連続操業方式の採用が提案され、これを前提とする賃金増額についての回答が出され、被告組合が連続操業に反対したため、団体交渉はまとまらず、被告組合は、右要求貫徹のため、同年四、五月にかけて、断続的にストライキを行ない、訴外会社もこれに対抗して工場閉鎖を行なつたりした。こうした状況の下で、同年五月一七日訴外会社は、同年六月一〇日をもつて存続期間が満了する労働協約について、従来採用されてきたいわゆるユニオンシヨツプ制を廃止することなどその根本的な改訂を提案したため、これに強く反対する被告組合との対立を深め、その後被告組合が操業方式については譲歩するようなことがあつたが、団体交渉は妥結に至らず、労働協約は一週間だけ延長されたものの、同年六月一八日をもつて、被告組合と訴外会社とは無協約状態となつた。その後、さらに団体交渉が重ねられたが妥結せず、被告組合は、同月二六日から時限ストライキを反復したうえ、同年七月一八日からは、全面的に無期限ストライキに入つた。

被告組合と訴外会社とが無協約となり、従来のユニオンシヨツプ制が失効した頃から、被告の組合員の一部に執行部を闘争至上主義として非難するものが現われ、同年七月に入ると、被告組合の執行部を批判するビラが組合員有志名義でまかれ、同月初旬被告組合東京支部に組合脱退者がでてからは、春日井、苫小牧各支部においても、次第に脱退者が現われるようになり、これら脱退者のうちには、個人名や共同名義で被告組合を激しく非難するビラを出した者も少なくなかつたが、やがて、脱退者は、新労働組合を結成し、苫小牧支部脱退者も、同年八月八日に王子製紙工業新労働組合を結成した。このような被告組合内部の動向に対し、訴外会社は、同月一四日声明を発表し、新組合の設立を歓迎し、今後新組合と全面的に協力する意思を明らかにすると同時に、被告組合の争議行為を非難しこれと対決する決意を強調し、また原告菱中興業は、新労働組合に対して、金一〇万円の資金援助をした。新組合は、同月一六日頃訴外会社と生産再開等に関して団体交渉を行ない、その結果、新組合の組合員によつて操業を再開することに両者の話がまとまつた。

これに対し、被告組合では、新組合の操業を許すことは、被告の行なつているストライキの効果を著るしく減殺するばかりでなく、訴外会社や新労働組合の攻撃により、組合員の動揺を増し、ひいては、組織に重大な打撃を受けることにもなるとの判断の下に、新組合員の就労を阻止することを決め、総評をはじめ他の労働組合の応援を得て、訴外会社苫小牧工場の各出入門及びその付近の要所に組合員を配置して、ピケツトをはり、また必要に応じていつでもピケツトを強化し得るような態勢をととのえた。そのため、新組合員は、苫小牧工場に入構することができず、訴外会社は、操業を再開することができなかつた。そこで、訴外会社は、被告組合苫小牧支部を相手に、札幌地方裁判所に対し、会社施設の保安及び保全の必要を理由として、ピケツトの排除等を求める仮処分を申請し、同年九月六日同裁判所から「会社の指定する従業員及びその他の者の苫小牧工場構内への出入りを実力で妨害してはならない」旨の決定を得ると、同月八日からその執行に着手し、これによつて、同月一五日警察官約二、〇〇〇名の援助の下に、当時の新労働組合員(苫小牧)約四五〇人のうちの大部分が入構し、新組合では、同日生産再開宣言を発して、訴外会社の操業に従事し、以後、争議解決まで工場内にあつて、生産を続けた。

訴外会社は、右九月一五日被告組合小苫牧支部の組合員に対し無期限の工場閉鎖を宣言し、爾後団体交渉も進展しないまま争議状態が継続したが、同年一一月にいたり、中央労働委員会は職権斡旋をすることになり、同月二一日提示された斡旋案について、訴外会社、被告組合双方がこれを受諾して、団体交渉を進めたが、妥結できず、同年一二月八日同委員会の仲裁裁定により、翌九日をもつて、ストライキ及び工場閉鎖が解除され、争議は終了した。

2  原告らの従業員の入構阻止の経過

(一)  証人小浜浩の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証並びに証人小浜浩、同野崎文生、同中野利雄、同袴田悌三、同長野皓、同山田耕次郎、同宇佐吉雄の各証言及び原告松本鉄工所代表者本人尋間の結果によれば、原告らは、いずれも前記争議発生の相当前から、訴外会社とその主張のような契約を結び、苫小牧工場構内において原木の貨車卸しや構内での運搬、建物、機械等の改修工事を常時行なつていたもので、訴外会社のいわゆる下請業者であり、経済的に訴外会社に依存する度合は大きく、なかでも、原告菱中、同松本などは、株式の取得や退職した役職者の入社などによつて、訴外会社と特に深い関係があつたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  いずれも成立に争いのない甲第六、第七号証、同第九ないし第一一号証、乙第三七ないし第四四号証、同第四五号証の一、四、五、原告松本鉄工所代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一二、第一三号証、同第一八号証、証人長野皓の証言により真正に成立したと認められる甲第二三号証の一ないし二三、証人畠山祐治の証言により真正に成立したと認められる乙第五〇、第五一号証、同第五三号証の一ないし一二並びに証人市川年雄、同長野皓、同山田耕次郎、同宇佐吉雄、同蛯谷武弘、同畠山祐治、同小山喜代治、同岡田建一、同吉住秀雄の各証言及び原告松本鉄工所代表者本人尋問の結果を総合すると原告らの従業員が訴外会社苫小牧工場への入構を被告の組合員によつて阻止された経緯と状況は、次のとおり認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

被告組合は、前記争議において、昭和三三年九月六日の前記仮処分決定が出るまでは、原告ら下請業者に対して、直接なんらの行動をとらず、新労働組合員に対してピケツテイングにより、苫小牧工場入構を阻止していた間も、原告ら下請業者の従業員が、苫小牧工場構内へ作業のため入出構することは、自由に認めていた。

ところが、昭和三三年九月六日前記のとおり被告組合苫小牧支部に対し訴外会社指定の従業員等の苫小牧工場入出構を実力をもつて妨害してはならない旨の仮処分決定が出され、その執行によつて新労働組合員が苫小牧工場に入構し、操業を開始することが予想される事態となり、しかも、当時新労働組合員の八割近くが訴外会社の事務及び山林部門の従業員で、生産業務についていたものではなかつたため、生産の再開に当つては、工場構内に入つている下請業者の従業員が訴外会社の生産業務に使用される虞が強かつたところから、被告組合は、訴外会社の生産再開を阻止するための手段の一つとして、原告ら下請業者に対し、訴外会社の生産業務に下請従業員を従事させる等のスト破り行為をしないことの確約を求めることとし、その確約を得るために、下請従業員に対してもピケツトをはることにした。

同月八日、被告組合苫小牧支部は、右方針に基づき、苫小牧工場に入構に来た原告らの従業員に対し、被告組合員ら約二〇〇名で同工場通用門前にスクラムを組み、原告らの従業員に対し、ストライキへの協力のため同工場内に入構しないよう呼びかけたところ、これを押して入構しようとする者はなかつた。そのうち、右事態を知つた原告ら下請業者の責任者らが集り、原告菱中、同松本、同丸彦の代表者らから被告組合に対し、従業員の入構を阻止したことに対する抗議がなされ、これに対して被告組合は、原告らに、従業員の賃金の七割を保障するから、苫小牧工場への入構をしないように要請し、入構するのであれば、下請業者は従来の作業以外の仕事をせず、定時に入出構し、入構人員を増加しないことを被告組合と約束し、もつてスト破りとなる行為をしないことを確約するよう求めて交渉を続けたが、原告らは、被告側の右要求は原告らの営業権を侵害するものであるとして、これを拒絶したため、交渉はまとまらず、被告組合が原告らの従業員に対するピケツトを続けたため原告らは、従業員を解散させて、入構できなかつた。

翌九日原告ら下請業者は、その従業員約三〇〇名を集結させ、隊伍を組んで苫小牧工場通用門に向い、同所でスクラムを組む被告組合員らと対峙したが、被告側からの呼びかけで、原告らと交渉がもたれることになり、原告ら従業員が同所を引き揚げたため、被告組合員と衝突が起るようなことはなかつた。しかし、この日も、双方前日同様の主張を繰り返して、交渉は妥結しなかつた。そして、翌一〇日も同様の経過をたどつたが交渉はまとまらなかつた。

同月一一日、原告らは、前日同様従業員に隊伍を組ませて、通用門に就労のため行進したが、被告組合によるスクラムにあい、再び両者で交渉がもたれ、その結果、原告ら下請業者がスト破りとなる行為をしないということを確約する趣旨で、「職業安定法違反の行為はしない」旨の念書を被告組合の方に毎日差し入れることにより、被告側では、原告らの従業員に対するピケツトをとくことで話合いがついて、同日午前一〇時頃、通用門前で待機していた原告ら従業員は、苫小牧工場内に入構した。

翌一二日は、原告菱中興業の従業員が、同原告が前日約束の念書を準備しなかつたため、それが作成された午前九時まで約二時間被告組合員のピケツトにあい、入構を遅らせられた外は、他の原告らの従業員は通常のとおり入構し、一三日、一四日に、右念書を差し入れて全下請業者が円満に入構した。

同月一五日早朝、前認定のとおり、苫小牧工場に新労働組合員が警察官二、〇〇〇名の出動の下に、被告組合のピケツトを排除して就労したため、工場付近は騒然たる空気に包まれ、被告の組合員や支援労働者らも興奮していて、下請従業員が入構しようとすると不測の事態が発生する虞もあつたところから被告組合は、下請従業員に対し入構の一時中止を呼びかけることにして、通用門前に集つた原告らの従業員に対しスピーカー等でその旨を述べ、スクラムを組むなどしたが、原告らの従業員も強いて入構しようとはしなかつた。これに対して、原告らから被告組合苫小牧支部に抗議があり、被告組合側では、右事情を述べて、入構の一時延期を求めたが、原告らは即時入構を主張して話合いはまとまらず、翌一六日も、前日の混乱が尾を引き、原告らと被告側との交渉も十分には行なわれないまま、被告組合はスクラムを組んで原告らの従業員の入構に立ち向い、原告らの従業員は入構できなかつた。一七日朝も、前日同様の状態で、隊列を組んで来た原告らの従業員約三〇〇名と被告組合員が苫小牧工場前で対峙することとなつたが、やがて原告らと被告との間で、原告らが従来の作業以外に訴外会社の正規従業員のなすべき作業をしないことを約し、その趣旨で「職業安定法違反の行為をしない」旨の念書を被告側に差し入れることで話しがついて、同日午後一時頃待機中の原告らの従業員は入構し、一八日、一九日は、なにごともなく、原告らの従業員は入構した。

九月二〇日、原告菱中、同松本を除くその他の原告ら下請業者は、前日通り入構、就労したが、原告菱中及び同松本について、被告組合苫小牧支部に、下請の従業員から右両原告の従業員が被告との約束に反し、前日一九日に苫小牧工場構内で訴外会社の正規従業員の仕事である調木の廃材処理と損紙処理を行なつた旨の連絡があつたため被告側では、右両原告の従業員に対し、通用門入口に縦に並んでピケツトをはり、話合いがつくまで入構しないよう呼びかけたところ、これを押して強いて入構しようとする者はなかつた。一方、右事態について、被告側と交渉した原告菱中及び同松本の責任者は、被告側が主張する約束違反の行為について、これを強く否定し、前日右両原告の従業員が訴外会社の従業員のなすべき作業を行なつたか否かについては、水掛論に終始した。そこで、被告側では、右両原告に対し、改めてスト破りとなるようなことをしない旨確約することを求めたところ、両原告は、これを拒絶したため、話合いはまとまらなかつた。翌二一日、二二日も同様の状況で、交渉は進展せず、右両原告の従業員は、入構のため苫小牧工場通用門前に集つたが、被告組合員らのピケツトによつて、入構することができなかつた。

原告菱中及び同松本は、原告ら下請業者の中では、規模も大きく、訴外会社との取引等の関係も深くて、従来から指導的な役割を果していたが、右事態に対処するためには、下請業者が団結して被告組合に対抗する必要があるとし、同月二一日他の原告らに働きかけて、「王子構内下請業者協議会」(以下、下請協議会という。)を発足させ、同協議会は、新聞の折込広告により、被告組合の入構阻止を強く非難し、また宣伝カーなども利用して、被告組合を攻撃し、苫小牧工場入構については、被告側が入構を認めている下請業者まで、統一行動の目的で入構をしないことを決定した。

同月二三日原告ら全下請業者の従業員は、各原告責任者を先頭に隊列を組んで通用門に向つて行進し、途中被告側のデモ隊と対峙するようなこともあつたが、通用門前に至り、被告側がマイク等で原告菱中、同松本以外の原告らの従業員に入構を呼びかけたが、統一行動をとることとしたそれら下請業者は、逆に入構を拒否して、右両原告ら従業員と共に隊列を組んで、被告側のピケ隊と対峙を続けた。そして、被告側と右原告菱中、同松本との交渉では、被告の要求するスト破り行為をしない旨の確約を両原告は拒絶し続けた。翌二四日も、右同様のことが繰り返された。

同月二五日、訴外会社は、下請協議会との協議に基づき、前記仮処分決定の執行という方法で、原告らの従業員を入構させることとし、同日朝執行吏を先頭に原告ら従業員が隊伍を組んで通用門に向つた。これに対し、被告側は、原告菱中、同松本以外の従業員に対して、マイクや掲示板等で入構を促し、一方右両原告に対して話合いを求めた。そこで執行吏の提案により、下請従業員はいつたん引き揚げ、同日午後からさらに原告らと被告とで話合うこととなり、その結果、下請業者協議会と被告苫小牧支部との間で、協議会は、現在の争議状態を考慮し、従来より行なつていた作業だけに従事すべきものとする被告組合の意向を尊重して、下請契約を締結する旨の念書を交すことによつて、被告と原告らとの従来の紛議を解決することに話合いがまとまつて、翌二六日から原告ら下請業者の従業員は、平常通り入構就労した。

その後、しばらく平穏な状態が続いたが、同年一〇月一三日原告菱中、同丸彦、同雨龍の三業者が、苫小牧工場水路門で、その従業員を使用して、本来訴外会社の従業員の行なうべき原木流送の作業を行ない、これに抗議した被告組合員に殴り込むというようなことがあつたため、翌一四日、被告側では右三業者の従業員を話合いがつくまで入構させないことにしてピケツトをはり、これを押して入構しようとした右三業者の従業員との間でもみあいが行なわれて、被告側がこれを押し返すというようなことがあつたが、被告側と右三業者との交渉で、まず原告菱中との間で話合いがついて、同原告の従業員は同日午後一時に入構し、その他の二業者は、妥結が遅れたため、翌一五日から入構した。

以後、争議解決まで、原告らと被告側で、下請従業員の入構問題で特段の紛争はなかつたが、ただ、同年一一月五日に、同日が警察官職務執行法改正反対のため全国統一行動日であつたところから、被告側が入構に来た原告らの従業員に右統一行動参加を呼びかけたところ、下請従業員は就労を見合わせてそれぞれの事業所に引き返した。これに対し、原告らの責任者より被告側に抗議が出され、原告らの従業員も業者の指示に従う様子であり、被告側の呼びかけも、右統一行動参加に止まり、入構阻止を目的とするものではなかつたところから、程なく話合いがついて、同日午前一一時より原告らの従業員は入構した。

(なお、原告雨龍建設は、昭和三三年九月一八日に、午前七時から一一時まで、また、原告丸一興業は、同年一〇月一四日に、いずれも被告組合員に入構を阻止されたと主張するが、右事実を認めるに足る証拠はなく、かえつて、前掲各証拠によれば、そのような事実はなかつたと認められる。)

(三)  いずれも成立に争いのない甲第六、第七号証、同第二四号証、乙第三五号証、同第四四号証、同第四五号証の二、三、証人小浜浩の証言により真正に成立したと認められる甲第三ないし第五号証、同第一七号証、証人佐野文夫の証言により真正に成立したと認められる乙第五二号証の一ないし一四、同第五三号証の一ないし一二並びに証人小浜浩、同野崎文生、同山田耕次郎、同畠山祐治、同佐野文夫の各証言を綜合すれば、原告菱中のチツプ搬入に対する被告の阻止の態様は、次のとおり認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

原告菱中興業は、昭和三三年四月三〇日、訴外会社に対し松チツプ約一四万石を昭和三四年三月末日までの間に一石金一、三三〇円で苫小牧工場調木コンベアー室に搬入して売り渡す契約をし、これに基いて、同年五月から同年七月中旬頃までは、一日四〇〇ないし五〇〇石の松チツプを三輪車を用いて苫小牧工場裏門から搬入していたが、同月一八日前認定のとおり被告組合が全面的無期限ストライキに入り、訴外会社の生産が止つたため、原告菱中のチツプの納入も中断していた。同年九月一五日、新労働組合員が苫小牧工場に入構し、操業の一部が開始されると、訴外会社は、同月一六日同原告に対し翌一七日以降一日二〇〇石を限度にチツプを納入するよう指示した。

当時、苫小牧工場裏門には、新労働組合員の入出構を阻止するために、被告組合員によるピケツトがはられていたので、原告菱中では、チツプ納入の支障にならないよう、右一六日に被告組合苫小牧支部に交渉した。これに対し、被告側では、チツプが製紙原料であり、これを納入することは、訴外会社の操業を助け、ひいては被告組合によるストライキの効果を減殺することとなるところから、原告菱中に対し、チツプを納入しないよう要請し、同原告がこれに応じなかつたため、当時訴外会社側で、苫小牧工場の操業率を一割と発表していたことを理由に、同原告の納入予定量の一割ないし一割五分に相当する、一日トラツク三ないし五台分のチツプの納入だけを認めることにして、同原告と交渉を進めたが、右二〇〇石全部の搬入を主張する同原告との間で、交渉は平行線をたどり、同月一九日頃から原告菱中は、チツプを積んだ自動三輪車二台を裏門近くの路端に待機させたが、被告側のピケツトにはばまれて、搬入することはできず、同年一〇月一八日まで、右のような事態が継続した。

一〇月一八日午後一時頃、原告菱中は、一見暴力団員風の者数十名を率いて裏門に至り、同門前でピケツトをはつていた被告組合員約三〇名に対し暴力を振いかねないような態度を示して、これを威し、さらに、ピケツトをはる被告組合員の寒さをしのぐ目的で同門の前に設置されていた仮小屋とそこにあつたストーブなどを打ち毀して、同門前を流れる苫小牧川に投げ込むなどの暴力行為を行なつて、被告側のピケツトを実力をもつて排除し、同門より自動三輪車八台分のチツプを搬入した。一九日、二〇日には、原告菱中によるチツプの搬入はなかつたが、二〇日午前六時頃、原告菱中、同丸彦等は、暴力団員風の者などによつて、苫小牧工場東北門でピケツトをはつていた被告組合員らに殴る、蹴るの暴力行為を加え、被告組合員に怪我人が出るようなことがあつた。

一〇月二一日、原告菱中は、西北門のピケツトを実力で排除したうえ、同門の鉄橋に長板等で補強して、チツプ搬入の準備をしたところ、被告組合の支援に来ていた炭労の武田信一が仲介に入り、同原告と被告側で交渉した結果、両者間に同原告は当分の間一日自動三輪車一五台分のチツプを裏門から搬入することなどで話合いがつき、翌二二日からこれに基づいてチツプの搬入が行なわれ、その後同原告よりチツプ搬入量を二〇台分にしたい旨の要請があつたが、被告側が拒絶したこともあつた。

三、事実関係に対する判断

先に述べたとおり、労働争議に際して、労働組合のとつた行動が、企業の内部問題たる争議行為の範囲内にとどまる限り、その行為が争議行為として違法であつても、これによつて右企業と取引関係のある第三者が蒙つた損害について、労働組合は直接第三者に対して責任を負うものではないと解すべきである。そこで、前認定の事実関係に基づき、被告組合が原告らの従業員の入構を阻止し、原告菱中のチツプの搬入を阻止したことが、右述の意味の争議行為に当るかどうかを判断することとする。

そこでまず、争議行為の目的の面から、これを考察するに、被告組合の争議行為の目的は、賃上げなどの使用者に対する経済的要求と労働協約の改訂問題についての自己の主張を貫徹することにあつたのであるから、本件争議が企業の内部問題たる労働関係について争われたことは明白であり、争議目的よりする限り、本件争議は企業の内部問題として解決さるべきものといわねばならない。

そこで、被告組合が原告らに対してとつた行動が、その趣旨及び行為の外形よりして、争議行為として評価され得るものであるかどうかを検討する。

労働組合の争議行為、特にストライキは、賃金を一時的に断念して、その経済的負担にたえながら、労働力を供給しないことによつて、生産を中止させ、使用者に損害を加えて、その譲歩を求めるものであるから、使用者が他から労務者を集めて、操業を継続することになれば、労働組合のストライキは、争議行為としての効果を著しく減殺されることとなる。したがつて、ストライキ中の労働組合が、そのようないわゆるスト破り行為が行なわれることを防ぐために、ピケツトをはることは、争議行為としては当然のことといわねばならず、それが、外形上は第三者に対し直接向けられているからといつて、企業の内部問題たる争議行為としての範ちゆうを出るものということはできない。これを本件について見ると、被告組合が原告らの従業員の入構に対しピケツトをはり、原告菱中のチツプ搬入を阻止したのは、次のような経緯に基づくものである。すなわち、被告組合は、訴外会社といわゆるユニオンシヨツプ制の協定を結んでいたが、その廃止問題もからんで、本件争議に入り、その争議中に労働協約が失効して、ユニオンシヨツプ制も消滅することになつた。それと共に、被告組合の内部に執行部批判が起つて、やがて脱退者による新労働組合の結成に至つたが、このような動きに対し、訴外会社は、公然と被告組合を非難し、新労働組合を支持し、ために被告組合内部の動揺も広がることとなり、被告組合のストライキのために全面的に操業を停止していた苫小牧工場で、新労働組合が操業を再開するかどうかが、被告組合のストライキの効果の問題としてだけではなく、被告組合の団結の維持のためにも極めて重大な問題であつたため、就労と生産再開を主張する新労働組合員に対し、被告組合が強力なピケツトをはることとなつた。こうした事情の下に、原告らの立場を見てみると、原告らは、いずれも訴外会社の下請企業として、経済的に訴外会社に依存し、また、原告らの中でも多数の従業員を訴外会社の下請作業に従事させ、その指導的役割を果していた原告菱中、同松本などは、人的または資本的にも訴外会社と関係が深く、したがつて、原告らが訴外会社の意向に基づいて行動し場合によつては、スト破りとなる行為をすると疑うことは、客観的にもつともな事情にあり、現に、原告菱中は、新労働組合の結成に対し資金援助をなし、また、後には、原告らは下請協議会を結成して、統一行動をもつて被告組合に対抗し、さらには、原告菱中、同丸彦等では、暴力団員風の者をして被告組合のピケツトに殴りかかる等の暴力的行為をもひきおこすなど、訴外会社の意を体し、被告組合と対抗するものと疑われる行動が行なわれている。そして、これらの事情に、新労働組合の大部分が、当時は事務関係及び山林関係の従業員で、生産現場の従業員が少なかつたことを考えあわせると、原告らの従業員が苫小牧工場に入構して、訴外会社の生産業務に従事し、また原告菱中がチツプを多量に搬入することによつて訴外会社の生産再開に協力し、被告組合のストライキの効果を減殺することとなると疑うことはもつともというべく、したがつて、被告がその争議目的を達成するために、原告らの従業員の入構や原告菱中のチツプ搬入に対してピケツトをはつたことは、争議行為としては、当然に考えられるところといわねばならない。しかも、被告組合が、原告らの従業員に対して、はじめてピケツトをはつたのは、訴外会社が申請した仮処分決定が出て、これによつて新労働組合員の入構が切迫した昭和三三年九月八日であり、その以前においては、ストライキ中も原告らの従業員は自由に入出構をしていたこと、右ピケツトによつて、被告組合が原告らに対し求めていたのは、スト破りとなる行為をしないことの確約であり、原告菱中のチツプ搬入阻止も同一趣旨に出たものであつて、いずれも右趣旨の話合いがつくことによつて、入出構や搬入が行なわれていること、その後に入出構に対しピケツトがはられたのは、原告らの中で被告組合との約束に反した者または反したことを疑うに足りる状況があつたものに限つて行なわれたことなどよりすれば、被告組合の原告らに対する行動が、争議目的と無関係な原告らに対する加害目的に基づいたものと解し得ないことは勿論、その態様とこれが行なわれた前記の諸事情を総合勘案すると、争議行為としての労働法的評価を受け得ない程の明白な逸脱、行過ぎと解することもできない。

してみると、被告組合が原告らに対してとつた行動は、争議行為として、なお企業の内部問題たるべきものと解されるから、これが争議行為として正当な範囲を逸脱したものであつたかどうかを問うまでもなく、原告らは、被告に対し、これによる損害の賠償を請求することができないものといわねばならない。

なお、昭和三三年一一月五日、被告組合がいわゆる警職法改正反対の統一行動日であることを理由に、原告ら従業員に統一行動参加を呼びかけたことは、一応争議目的とは無関係ではあるが、同日の状況は前認定のとおり、被告組合の呼びかけに原告らの従業員が応じて入構を一時見合わせたのであつて、そのこと以上に被告側が原告らの従業員の入構を無理に阻止したとは認められないから、被告組合の右呼びかけをもつて、違法ということはできない。

四、結論

以上の次第で、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないから、いずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古田時博 町田顕 海保寛)

(別表省略)

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